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名古屋地方裁判所 昭和33年(ワ)19号 判決 1961年10月17日

原告 稲垣昇

被告 内藤正一 外四名

主文

一、被告全員との間において別紙第一目録記載の土地一六二坪および別紙第二目録記載の建物の各所有権が破産者安藤吉三郎の破産財団に属することを確認する。

二、被告らは原告に対し前項記載の不動産につき昭和二六年三月安藤吉三郎との売買を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

三、破産者安藤吉三郎が被告三宅川英夫に対し別紙第三目録記載の土地につき、賃料を一ケ月金一、〇〇八円とし、これを三ケ月分宛一括して年四回に支払う旨の期間の定のない転借権を有することを確認する。

四、訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

事実

一、原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、被告ら訴訟代理人は原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求めた。

二、原告訴訟代理人は請求原因を次のとおり陳述した。

訴外安藤吉三郎は昭和三一年六月一五日名古屋地方裁判所において破産の宣告(昭和三〇年(フ)第一八号)を受け、原告は直ちにその破産管財人に選任された。

これより先訴外安藤吉三郎(以下破産者という。)は昭和二六年三月三日被告三宅川英夫、同内藤正一と訴外渡辺俊雄から、同人ら共有の別紙第一目録記載の土地一六二坪および右地上に存在の(イ)木造瓦葺二階建事務所(工場)建坪五〇坪外二階五〇坪、(ロ)別紙第二目録記載の建物、(ハ)木造セメント瓦葺平屋建物置建坪一坪五合を代金合計五〇万円にて買受け、また同月三一日被告三宅川から同人が名古屋市から賃借中の別紙第三目録記載の土地上に建設所有する木造セメント瓦葺平屋建倉庫建坪四五坪を代金二五万円にて買受けると共に、同被告からその敷地である別紙第三目録記載の土地を、期間を定めず、賃料一ケ月一、〇〇八円とし、これを毎年三月、六月、九月、一二月に三ケ月分宛支払うとの約定で転借した。しかして前記各買受け代金は、訴外小沢金一が破産者に代つてそれぞれ売主に支払いを了し、また訴外渡辺俊雄は昭和二七年七月一日死亡し、被告渡辺ハルは妻として、同渡辺宙明、同渡辺和子はいずれも子としてその相続をした。

しかるところ、破産者が被告三宅川、同内藤、訴外渡辺から買受けた前記建物のうち(ハ)の建物は買受け後破産者自らこれを取毀し、また(イ)の建物は昭和三四年秋の伊勢湾台風により倒壊し、また被告三宅川から買受けた前記転借地上に存在の建物も亦右台風によつて倒壊した。

しかして被告らは破産者に対し未だに別紙第一、二目録記載の物件につき所有権移転登記手続をしないばかりか、破産者が右各物件の所有者であることを争つている。また被告三宅川は破産者が別紙第三目録記載の土地の転借権者であることを無視して右地上にバラツク建倉庫を建築した。

よつて原告は被告らに対する関係において別紙第一、二目録記載の物件が破産者安藤吉三郎の所有に属し従つて破産財団に属することの確認を求めると共に、別紙第一、二目録記載の土地建物につき昭和二六年三月三日付売買を原因とする各所有権移転登記手続を求め、また被告三宅川に対する関係において破産者安藤吉三郎が別紙第三目録記載の土地につき転借権を有することの確認を求めるため本訴請求におよぶ。

三、被告内藤正一、同三宅川英夫訴訟代理人は次のとおり答弁した。

原告の主張事実中訴外安藤吉三郎が昭和三一年六月一五日名古屋地方裁判所において破産の宣告を受け、原告がその破産管財人に選任されたこと、被告内藤、同三宅川および訴外渡辺俊雄が昭和二六年三月当時原告の主張する不動産を共有していたことはこれを認めるが、渡辺俊雄が昭和二七年七月一日死亡し、被告渡辺ハル、同渡辺宙明、同渡辺和子がその共同相続をしたことは知らない。その他原告の主張する事実はこれを否認する。

四、被告渡辺ハル、同渡辺宙明、同渡辺和子訴訟代理人は次のとおり答弁した。

原告の主張事実中訴外安藤吉三郎が昭和三一年六月一五日名古屋地方裁判所において破産の宣言を受け、原告がその破産管財人に選任されたこと、訴外渡辺俊雄が昭和二七年七月一日死亡し、被告渡辺ハルは妻として、同渡辺宙明、同渡辺和子はいずれも子としてその相続をしたことはこれを認めるが、被告三宅川、同内藤および渡辺俊雄が破産者に原告主張の不動産を代金五〇万円で売渡し代金を受領したとの事実はこれを否認する。

五、証拠。

原告訴訟代理人は甲第一号証、同第二号証の一、二、同第三号証、同第四号証の一、二、同第五ないし第七号証、同第九ないし第一二号証、同第一三号証の一ないし九、同第一四ないし第一八号証、同第一九号証の一、二、三を提出し(甲第八号証は欠番)証人小沢金一、安藤吉三郎(二回)、岩本正直の各尋問を求め、乙第一号証の成立は不知、その他の乙号証はいずれもその成立を認めると述べた。

被告三宅川、同内藤訴訟代理人は乙第一ないし第五号証を提出し、被告三宅川英夫本人の尋問を求め、甲第一号証、同第二号の一、二、同第三号証、同第一三号証の一ないし九、同第一四、第一五号証、同第一七、第一八号証、同第一九号証の一、二、三はいずれも成立を認めるが、その他の甲号各証の成立は不知と述べた。

被告渡辺ハル、同渡辺宙明、同渡辺和子訴訟代理人は甲第一号証、同第二号証の一、二はいずれも成立を認めると述べた。(その他の甲号証については認否をしない。)

理由

訴外安藤吉三郎が昭和三一年六月一五日当庁において破産の宣告(昭和三〇年(フ)第一八号)を受け、原告がその破産管財人に選任されたことは当事者間に争いがない。

そこで原告の請求中先づ被告三宅川、同内藤および訴外渡辺俊雄と訴件安藤吉三郎(以下破産者という。)との間の不動産売買の点につき判断する。右被告両名と渡辺俊雄が昭和二六年三月当時原告の主張する土地建物を共有していたことは右被告両名の自白するところであり、その他の被告らは右事実を明らかに争わないからこれを自白したものとみなすべきである。しかして証人小沢金一の証言によつて成立を認め得る甲第三号証、同第一三号証の一ないし九、同第一六号証(但し甲第三号証および同第一三号証の一ないし九は被告三宅川、同内藤においてその成立を争わない。)に、右証言および証人安藤吉三郎(第一回)、岩本正直の各証言を綜合すれば、破産者は昭和二六年三月被告三宅川、同内藤および渡辺俊雄から、同人ら共有の前記土地建物を代金五〇万円で買受け、訴外合名会社小沢商会(代表者小沢金一)が破産者に代つて代金の支払いを了したこと、その後破産者は買受け建物のうち名古屋市中川区玉船町二丁目一番の二木造セメント瓦葺平屋建物置建坪一坪五合を取毀し、また同所木造瓦葺二階建事務所建坪五〇坪外二階五〇坪は昭和三四年秋の伊勢湾台風の際倒壊し、従つて買受物件は現在別紙第一、二目録記載の不動産を残すのみとなつたことが認められ、他に右認定を覆すに足る証拠はない。しからば別紙第一、二目録記載の土地建物は破産者の破産財団に属するものといわなければならない。しかして渡辺俊雄が昭和二七年七月一日死亡し、被告渡辺ハルは妻として、同渡辺宙明および同渡辺和子はいずれも子として右俊雄の相続をしたことは右被告三名の認めるところであり、被告全員が別紙第一、二目録記載の不動産が破産者の所有に属すること、従つて破産財団所属の財産であることを争つていることは本件事案に徴して明白であるから、被告らに対しこれが確認を求めると共にその所有権移転登記手続を求める原告の請求は正当である。

次に原告の被告三宅川に対する転借権確認の請求につき判断する。証人小沢金一、岩本正直の各証言、証人安藤吉三郎の第一、二回証言の各一部、被告三宅川本人の供述の一部を綜合すると、被告三宅川はかねて名古屋市から別紙第三目録記載の土地を、期間を定めず、一ケ月一、〇〇八円の賃料を三ケ月分宛一括して支払う約定で賃借し、この地上に木造セメント瓦葺平屋建倉庫建坪四五坪の建物を所有していたところ、破産者安藤は前記のとおり別紙第一、二目録記載の不動産を購入すると殆んど時を同じくして被告三宅川から右建物を代金二五万円で買受け、(この代金も亦訴外小沢金一が破産者に代つて被告三宅川に支払いを完了した。)これと共に右土地をも同被告が名古屋市から賃借すると同一約定をもつて転借し、同被告に対し三ケ月分の転借料三、〇二四円を支払つていたこと、右地上建物は昭和三四年秋の伊勢湾台風で倒壊したことが認められる。証人安藤吉三郎の第一、二回証言および被告三宅川本人の供述中以上の認定と牴触する部分はこれを措信せず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。従つて破産者は別紙第三目録記載の土地につき被告三宅川に対する転借権を有するものといわねばならない。

さて転借権が財産権であることはいうまでもない。ただ将来これを他人に譲渡して換価するためには、賃貸人なり転貸人なりの承諾を要するものであるが、それだからといつてこの権利が直ちに破産財団に属し得ないものと即断することはできない。或いは破産管財人はこの権利を現実に換価しようとしても賃(転)貸人の承諾が得られないために換価が不可能となる事態に逢着するかもしれないが、しかしながら現在換価の可能性が否定されない以上、一応破産財団に所属する財産として管財人の管理処分に委ねてしかるべきであるから、右転借権は破産者安藤の破産財団所属の財産としてこれについて破産管財人たる原告が訴を提起することは正当である。しかして被告三宅川は右転借権の存在を争つているのであるから、これが確認を求める原告の請求は理由がある。

しからば被告らとの間において別紙第一、二目録記載の不動産が破産者安藤吉三郎の破産財団に属することの確認と、被告らに対し右不動産につき昭和二六年三月安藤吉三郎との売買を原因とする所有権移転登記手続を求め、また被告三宅川との間において別紙第三目録記載の土地につき破産者安藤吉三郎が転借権を有することの確認を求める原告の本訴請求はすべて正当であるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九三条第一項但書を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小淵連)

第一目録

名古屋市中川区玉船町二丁目一番の二

宅地四八〇坪(別紙図面<省略>中(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(イ)の各点を順次直線をもつて結んだ範囲)

のうち一六二坪(別紙図面<省略>中(ホ)(ロ)(ヘ)(ト)(ホ)の各点を直線をもつて結んだ範囲)

第二目録

名古屋市中川区玉船町二丁目一番の二

家屋番号第二番

木造瓦葺平屋建居宅兼事務所

建坪三〇坪

造作、瓦斯、水道、電気設備一式付

第三目録

名古屋市中川区中川運河幹線四号地

一、宅地 二〇〇坪

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